東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)280号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について、検討する。
1 成立に争いのない甲第一四号証によれば、第一引用例は、雑誌「ARCHIV DER ELEKTRISCHN 〓BERTRAGUNG」(一九六三年三月号)に掲載された「減衰極を持つメカニカルフイルタ」と題する論文であるが、同論文には、「これまでは減衰極を持つメカニカルフイルタの実現はうまくいかなかつた。メカニカルフイルタの非隣接共振子の間に機械的カツプリングを導入することによつて、(物理的な)実周波数と虚周波数に減衰極を持つフイルタを作ることができる。」(第一〇三頁前置部分第一ないし第五行)、「6、結び 非隣接回路相互間の橋絡結合の導入によつて簡単なやり方で、メカニカルフイルタにおいて極位置を作り出すことに成功した。」(第一〇七頁右欄第二九ないし第三四行)と記載されていることが認められ、右記載によれば、第一引用例は、非隣接共振子の間に機械的結合部を導入することによつて減衰極を持つメカニカルフイルタが得られることを論述したものであると認められる。
そして、同号証によれば、第一引用例の「2、機械的に実現可能な結合回路」の項には、機械的に実現可能な結合回路を示すものとして、第1図に、ねじれ共振子Ri、Ri+1、Ri+2がλο/4(λοは帯域の中央における波長)の長さの、縦振動する導体(結合子)によつて互いに結合され、非隣接ねじれ共振子RiとRi+2がλο/2の長さの導体によつて結合されているメカニカルフイルタが記載されていること(別紙図面(二)第1図参照)、「3、橋絡結合K14を持つ四端子回路結合フイルタの影像パラメーター理論」の項には、右第1図から簡単に実現することのできる橋絡結合を持つ四端子回路結合フイルタを示すものとして、第3図に、ねじれ共振子R1、R2、R3、R4を有し、非隣接共振子R1とR4が3λο/4の長さの結合線(結合子)によつて結合されているメカニカルフイルタが記載され(同第3図参照)、同図の装置について影像パラメータ理論を用いて影像減衰量、影像位相量等が検討されていること、「5、例」の項には、「第8図には通常使用されている単側波帯フイルタの公差図表を正規化されて示されている。要求は、Ω∞=1.25及びΩ∞=1.60の時に極を持つ二つの四端子回路網を縦続接続することによつてほぼ満たされるということがわかる。このフイルタは七つのねじれ共振子から作られている。結合は式(15)、(17)、(20)、(22)から帯域幅を3.400kHz、フイルタの中心周波数f0を198.100kHzとしてなされた。第9図はこのフイルタの構造を図式的に示している。隣接回路を結合しているすべての結合線について等しい直径のワイヤーを使用するために結合強度は共振子の特性インピーダンスの変化によつて調節された。これは、外径を一定(四mm)にした場合には同心円状に穴あけすることによつて容易に達成される〔4〕。(中略)第10図はフイルタ本体の写真を示している。この図には長手方向に振動する二つの磁気ひずみ変換器―フエライト棒が見られる。駆動コイルは省略されている。詳しく見ると、フイルタの上側では二本の結合線が第一と第四又は第四と第七の共振子の上にだけ溶接されており、残りの結合線は各々の共振子の上に取付けられているということがわかる。第四と第七の共振子は更に極Ω∞=1.25のための強い結合を作るためにもう一本のワイヤーによつてフイルタの下側に結合されている。」(第一〇六頁右欄末尾六行ないし第一〇七頁右欄第一四行)と記載されていること、第8図については、「単側波帯フイルタの公差図表並びに第3図にもとづく二つの部分フイルタによるフイルタの実現」、第9図については、「帯域幅3.4kHz、搬送周波数200kHz(下側の側波帯)の時のメカニカル単側波帯フイルタの中の結合分布」、第10図については、「第9図によるメカニカル有極フイルタの構造(二倍に拡大)」という図面ないし写真の説明が付されていること、第9図記載のメカニカルフイルタにおいて、各ねじれ共振子は、縦振動する、フイルタの全長にわたる結合子によつて、その縦軸と垂直に結合点において結合されており、隣接する共振子間の結合強度(結合度)ないし結合係数は、
K12=1.14%、K23=1.08%、K34=0.81%、K45=0.84%、K56=0.95%、K67=1.19%
と表示されていること、第10図に示されているフイルタは、中央の共振子を除く六個の共振子に同心円状の穴があけられていること、以上の事実が認められる(右認定のとおり、第一引用例の第9図に記載されているメカニカルフイルタにおいて、隣接する共振子間の結合強度(結合度)ないし結合係数はいずれも異なつているが、当該具体的数値がどのような資料に基づいて算出されたものであるかは、第一引用例においても明らかにされていない。)。
ところで、前記認定事実によれば、第一引用例中の「隣接回路を結合しているすべての結合線について等しい直径のワイヤーを使用するために結合強度は共振子の特性インピーダンスの変化によつて調節された。これは、外径を一定(四mm)にした場合には同心円状に穴あけすることによつて容易に達成される〔4〕」との記載部分は、第9図記載のメカニカルフイルタに関する記述であると認められること、第9図記載のメカニカルフイルタにおいて、隣接する共振子間の結合子の長さがいずれもλο/4であることは当事者間に争いがないこと、第一引用例には、第9図記載のメカニカルフイルタに使用される各結合子の材質は異なるものであるとの記載はなく、したがつて、各結合子の材質は同一であると解するのが相当であることからすると、第9図に図式的に示されているメカニカル単側波帯フイルタにおいて、各ねじれ共振子は、縦振動する結合子(フイルタの全長にわたる)によつて、その縦軸と垂直に結合点において結合されており、各結合子は長さがそれぞれλο/4で、いずれも等しい直径のワイヤーが使用されていて、各共振子間の結合強度(結合度)ないし結合係数は、例えば、共振子の外径を一定にした場合には、それに同心円状に穴あけをして、共振子の特性インピーダンスを種々に変化させることによつて調節されているものであり、したがつて、第9図記載のメカニカルフイルタを製品化したものの写真を示している第10図記載のメカニカルフイルタも右と同様のものであつて、第9図、第10図記載のメカニカルフイルタにおける各結合子の特性インピーダンスないし結合リアクタンスは同一であると認めるのが相当である。
2 被告は、事実摘示第三の二1(一)ないし(三)において、要するに、第一引用例には、第3図に記載されているメカニカルフイルタの等価回路(第4図)を求め、右等価回路について、四個の共振子の特性インピーダンスとしてすべて同じであるZを用いて設計理論を求めたことが記載されており、第9図に示されるメカニカルフイルタは右設計理論における式(15)、(17)、(20)、(22)に基づいて設計されているのであるから、右フイルタにおける各共振子の特性インピーダンスは一定であり、式(12)からみても、共振子間の結合度は結合子の特性インピーダンスを種々に変えることによつて選定したものであるということができ、このことは、第11図及び同図に関する説明ならびに乙第二号証の一ないし三によつても裏付けられることである、また、第一引用例中の原告指摘の記載部分は文献〔4〕に関するものである、などとして、第一引用例の記載内容についての審決の認定に誤りはない旨主張する。
しかしながら、前記説示のとおり、第一引用例には、第9図に示されるメカニカルフイルタについて、「隣接回路を結合しているすべての結合線について等しい直径のワイヤーを使用するために結合強度は共振子の特性インピーダンスの変化によつて調節された。」と明確に記載されていて、結合線(結合子)の特性インピーダンスを種々に変えて共振子間の結合度を調節する旨の記載はないこと、第一引用例は右記載部分につづいて「これは、外径を一定(四mm)にした場合には同心円状に穴あけすることによつて容易に達成される〔4〕。」として、文献〔4〕、すなわち発行人プロフエツサー・ドクトル・ハ・ルコツプの「TELEFUNKEN ZEITUNG 一二〇号」を引用しているが、成立に争いのない甲第一五号証によれば、右文献中に事実摘示第二の四1(二)末段の原告の主張中で援用しているような記載があつて、結合係数が段階的に定められているフイルタにおいて結合係数の調整はねじり共振子に内孔をあけて行うことが示されていることが認められるから、第一引用例は第9図のメカニカルフイルタの共振子の特性インピーダンスを種々に変えるのに、右のような技術の開示を参照すべきものとした趣旨であつて、第一引用例中の原告指摘の記載部分が文献〔4〕のみに関する記述でないことは前後の文脈からいつても明らかであることからして、被告の前記主張は理由がないものというべきである。
なるほど、前記認定のとおり、第一引用例の「3、橋絡結合K14を持つ四端子回路結合フイルタの影像パラメーター理論」の項において、ねじれ共振子R1、R2、R3、R4を有し、R1とR4とが3λο/4の長さの結合線(結合子)によつて結合されているメカニカルフイルタを示す第3図の装置について、影像パラメーター理論を用いて影像減衰量、影像位相量等が理論的に検討されているところ、第5項は、「例」とする項目のもとに、第9図に示されるメカニカルフイルタについて論述されているから、第9図のメカニカルフイルタも第3図に関する理論に基づいて設計されたものであり、右理論がそのまま第9図のメカニカルフイルタにも適用されるべきものと考えられないではない。しかしながら、第一引用例の第3項の理論的検討中で用いられている式(12)、すなわちZ/Xij=Kijについて、各共振子の特性インピーダンスZを一定のものとし、各結合線(結合子)の特性インピーダンスXijが各々異なるものであるとすると、右各結合線の特性インピーダンスをどのように変えているのか第一引用例からは明らかではない。すなわち、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(日刊工業新聞社昭和四二年二月一八日発行・沢登義文著「通信用フイルタ」)によれば、結合子の特性インピーダンスは、結合子の長さ、断面積及び材質によつて変動するものであることが認められるところ、第9図に示されるメカニカルフイルタの結合子の長さはそれぞれλο/4で一定しているから、右各結合子の特性インピーダンスを種々に変えるためには、断面積、材質のいずれかあるいは双方を変えることになるが、第一引用例には、この点について何らの記載もなく、前記のとおり、「結合強度は共振子の特性インピーダンスの変化によつて調節された」という明確な記述が存する以上、第9図のメカニカルフイルタについて各結合子の特性インピーダンスを種々に変えているものと認定することは到底できない。
次に、前掲甲第一四号証によれば、第一引用例には、第11図にメカニカル有極フイルタの測定された減衰曲線(別紙図面(二)第11図参照)が示されていることが認められ、同図について、「第11図は、個々の回路の間の様々な結合がその時々に溶接された追加の結合線によつて段階分けされた、フイルタの減衰曲線を示している。共振子はすべて同じ寸法を有している。」(第一〇七頁右欄第一五ないし第二二行)と記載されていることは当事者間に争いがないところ、第11図が被告主張のように第9図記載のメカニカルフイルタの影像減衰量を実際の周波数で表わしたものであるとしても、右記載中の「個々の回路の間の様々な結合がその時々に溶接された追加の結合線によつて段階分けされた」という部分は、第10図及び同図に関する前記認定の記述からみて、減衰極を持たせるための第一と第四、第四と第七の各共振子間の橋絡結合線についての説明であつて、隣接する共振子間の結合線(結合子)についての説明であるとは認め難く、また、「共振子はすべて同じ寸法を有している。」という部分における「寸法」とは、「外形寸法」を意味するものとも解しうるのであつて、被告が主張するように共振子の特性インピーダンスが一定であることを意味しているものとは認め難いから、第11図及び同図についての前記記述をもつて、審決の認定が正当であることの根拠とはなしえないものというべきである。
更に、成立に争いのない乙第二号証の一ないし三によれば、社団法人電気通信学会発行・「電気通信学会雑誌」(昭和四〇年一一月号)に掲載されている柴山乾夫執筆にかかる「メカニカル・フイルタ」には、やや複雑な有極形構成例として、図2(a)「構成」には第一引用例の第3図と同一のもの、図2(b)「等価回路」には第一引用例の第4図と同一のもの、図2(c)「二〇〇Kc帯に適用した一例」には第一引用例の第8、第9、第11図と同一のものがそれぞれ示され(第五一頁右欄)、また、「図2(a)で四個の共振子R1~R4(ねじり振動)を順次につなぐ従来の結合子(縦振動)の外にR1~R4を結ぶ結合子をつけると、その等価回路は図2(b)のようになり、四端子マトリクスをつくると容易に有極形構成であることが分かる(図2(c)参照)。」(第五二頁左欄第二ないし第七行)と記載されていることが認められるが、右記述は、四個の共振子のうちのR1とR4とを結合子により結合することにより容易にメカニカルフイルタを有極形構成とすることができることを示しているだけで、各共振子間の結合度がどのように調節されるかについては何ら言及していないのであるから、右記述をもつて、被告の主張を正当づけるものとは認め難い。
以上のとおりであつて、「第一引用例の第9図には、(中略)結合子の特性インピーダンスを種々に変えて共振子間の結合度を種々に選定することが記載されており、」「第一引用例の第10図に記載されているものは、すべての結合子の特性インピーダンスのみを異ならせることによつて、すべての結合子の結合量を異ならせていることは明らかである。」旨の審決の認定は誤つているものというべきである。
そうすると、右認定を前提としてなされた本願発明と第一引用例記載のものとの対比判断も誤つているものというべく、右誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかであるから、その余の点について検討するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容する。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
終端共振子がそれぞれ電気振動を機械振動に又は機械振動を電気振動に変換する電気機械変換器に接続され、共振子が、縦振動を行ないかつ全長にわたつて同一の断面を有する少なくとも一つの結合子を介して結合され、該結合子が共振子の縦軸と垂直に設けられかつ共振子と結合点で結合せしめられ、共振子の実効質量が少なくとも実質的に相等しく、更に所定のフイルタ通過特性を得るため共振子間の結合度を種々に選定したエレクトロメカニカルフイルタにおいて、
電気機械変換器間に存在するメカニカルフイルタ系において直接隣接する結合点間の間隔のすべてを、結合点間の結合子で生ずる波長λの1/4より短かくし、直接隣接する結合点間の間隔の相互の大小関係を、すべての間隔が相等しいという場合と一つの間隔だけが残りの間隔とは異なるという場合とを除いた大小関係に設定し、直接隣接する結合点間の間隔のうち少なくとも一つを0.65×λ/4に等しいか又は0.65×λ/4より短かく設定したことを特徴とする軸平行に配置された複数個のねじり共振子を有するエレクトロメカニカルフイルタ。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>